半信半疑の様子で、音楽をよく心得ているのかとクリストフに尋ねた。心得てるばかりでなく自分で作りもすると彼が答えると、彼女は安心したらしく、前よりも愛想よくなった。自分で作るということが彼女の自尊心を喜ばした。娘が作曲家から稽古《けいこ》を受けてるという噂《うわさ》を、彼女は近所に広めるつもりだった。
 翌日クリストフは、肉屋の娘といっしょにピアノについた。それはギターのような音がする、出物で買った恐ろしい楽器だった。娘の指は太くて短く、鍵《キー》の上にまごついてばかりいた。彼女は音と音との区別もできなかった。退屈でたまらなかった。初めから彼の眼の前で欠伸《あくび》をやり始めた。そのうえ彼は、母親の監視や説明を受け、音楽および音楽数育に関する彼女の意見を聞かされた。すると彼はもう、非常に惨《みじ》めな気持になり、惨めな恥さらしの気持になって、腹をたてるだけの力もなかった。彼はまた失望落胆に陥った。ある晩などは食事することもできなかった。数週間のうちにここまで落ちて来た以上は、今後どこまで落ちてゆくことであろう。ヘヒトの申し出に反抗したのもなんの役にたったか。現在甘受してる仕事の方が、さら
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