特徴たるいつもの感情の陰謀を、芝居に導き入れていた。父祖を恥じてる息子《むすこ》どもが、民族の意識を打ち消さんとつとめていた。そしてうまく成功していた。古臭い自分らの魂を赤裸になした後、彼らに残ってる性格と言えば、他民族のあらゆる知的道徳的価値を混ぜ合わせるということばかりだった。彼らは諸種の民族で、一つのマケドニア人を、一つの雑炊[#「雑炊」に傍点]を、作り上げていた。それが彼らの享楽方法だった。パリーの芝居の頭《かしら》立った人々は、汚辱と感情とをこね合わせること、美徳に悪徳の匂いを与えること、悪徳に美徳の匂いを与えること、年齢や性や家族や愛情の諸関係をかき回すこと、などに秀《ひい》でていた。かくて彼らの芸術は、それ独特の[#「独特の」に傍点]臭みをもっていた。その臭みは、よいとともに悪いもので、言い換えれば、ごく悪いものだった。彼らはそれを「非道徳主義」と名づけていた。
 彼らが当時好んで用いていた主人公の一人は、恋してる老人であった。彼らの芝居には、そういう老人の姿がたくさん並んでいた。彼らはそういう類型的人物を描写するに当たって、機微にわたる多くの事柄を並べたてていた。あるいは、六十歳にもなる主人公が、自分の娘を腹心の友としていた。彼は娘に自分の情婦のことを話し、娘は彼に自分の情人らのことを話した。二人は親しく相談し合った。親切な父は娘の不品行を助けた。親切な娘は父の不貞な情婦に近づいて、もどって来てくれるように懇願し、家へ連れ込んできた。あるいは、りっぱな老人が自分の情婦の内密話の相手になっていた。彼は彼女の情人らのことを彼女と噂《うわさ》し、彼女の放逸の話を懇望し、ついにはそれに愉快をさえ感ずるようになった。それからまた、情人らも出て来るのであった。皆りっぱな紳士であるが、昔の情婦たちの雇い監督となり、彼女らの取り引きや情交などを監視した。社交界の婦人は盗みを事としていた。男子は媒介人であり、娘は淫猥《いんわい》だった。すべてそれらのことは、上流社会、富裕な階級――唯一の有力な階級、においてであった。そういう社会においては、腐敗した商品を華美の魅惑に包んで、客に提供することができるからであった。かく扮装《ふんそう》して市場に立ち現われると、若い女や年取った男どもが、それを非常に喜んだ。屍体《したい》と後宮の臙脂《えんじ》との匂いが、そこから発散していた
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