に社会を否定するのは、最上の贅沢《ぜいたく》である。なぜなら、かくして社会に負うところのものを免れるからである。盗人が通行人を劫掠《きょうりゃく》したあとに、その通行人へこう言うのと同じである、「まだここで何をぐずついてるんだ! 行っちまえ! もう貴様に用はない。」
 同人中でクリストフが好感をもってるのは、マンハイムにたいしてばかりだった。確かにこの男は、五人のうちで最も溌剌《はつらつ》としていた。自分の言うことや他人の言うことを、なんでも面白がっていた。どもり、急《せ》き込み、口ごもり、冷笑し、支離滅裂なことを言いたてて、論理の筋道をたどることもできず、みずから自分の考えを正しく知ることもできなかった。しかし彼は、だれにたいしても悪意をいだかず、また野心の影もない、善良な青年だった。実を言えば、きわめて率直だというのではなく、いつも芝居をやってはいた。しかしそれも無邪気にやってるのであって、だれにも害を及ぼさなかった。奇怪な――たいていは大まかな――あらゆる空想にたいして、彼は怒《おこ》りっぽかった。それをすっかり信ずるには、あまりに精緻《せいち》でまた嘲笑《ちょうしょう》的だった
前へ 次へ
全527ページ中96ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング