がら、廊下に出て行った。若い女の言葉はまだ彼の耳に響いていた。しかし彼は他のことに気を奪われていた。オフェリアの面影が彼の心を占めていた。そして次々の幕で彼はすっかりとらえられてしまった。狂乱の場面になると、愛と死とのあの哀《かな》しい歌のところになると、女優の声は人を感動せしめないではおかないような抑揚《よくよう》になり得たので、彼はまったく心転倒してしまった。子牛のように声を挙げて泣き出しそうになっている自分を、彼は感じた。そして、気弱さのしるし――(なぜなら、彼は真の芸術家たるものは決して泣いてはいけないと信じていたから)――だと思われるそのことにみずから憤り、また人に見られたくなかったので、ふいに桟敷から外に出た。廊下にも休憩室にもだれ一人いなかった。彼は心乱れながら階段を降りていって、みずから知らないで外に出た。夜の冷たい空気を吸いたかった。薄暗い寂しい通りを大跨《おおまた》に歩きたかった。いつしか運河の岸に出で、河岸の胸壁に肱《ひじ》をついて、黙々たる水をながめた。水の面には街燈の反映が闇《やみ》の中に踊っていた。彼の魂もそれに似ていた。真暗《まっくら》でおののいていた。表
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