ではなかったが――価値を発揮させることは、彼女には愉快なことだったに違いない。が彼女はただちに、それは争闘なしにはできないということを見て取った。彼女はクリストフの中にあるあらゆる種類の既成定見を不条理で幼稚だと思われるあらゆる観念を、一々調べ上げた。それらのものは雑草だった。彼女はそれらを引き抜こうと努めた。しかし一つも引き抜けなかった。彼女は自尊心の最も小さな満足をも得ることができなかった。クリストフには手のつけようがなかった。彼は彼女に心を奪われていなかったので、彼女のために自分の思想をまげる理由を少しももたなかった。
彼女は執拗《しつよう》になっていった。そしてしばらくの間、彼を征服しようと試みた。クリストフは当時、精神の明晰《めいせき》さをもってはいたけれど、も少しでふたたび虜《とりこ》になるところだった。人はおのれの高慢心と欲望とに媚《こ》びるものから欺かれやすい。そして芸術家は他の人よりもいっそう多くの想像力をもっているから、さらに二倍も欺かれやすい。クリストフを危険な親昵《しんじつ》に引き込むのは、ユーディットのやり方一つだった。その親昵は彼の精神をも一度うちくじき、
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