にあふれており――そのうえ好男子で、きれいな口と素敵な歯とをもっていた。彼はまた、自分はクリストフから感心されてると言い添えた。――ついにある晩、クリストフを家に連れて来て御馳走《ごちそう》してやった。クリストフは、新しい友の父親である銀行家ロタール・マンハイム、およびフランツの妹であるユーディットと、差し向かいになった。
 彼がユダヤ人の家の中にはいり込んだのは、それが初めてだった。ユダヤ人の仲間は、その小都市にかなり多数であり、またその富と団結力と知力とによって、重要な地位を占めてはいたけれど、他の人々と多少離れて生活していた。民衆の中には、ユダヤ人にたいする執拗《しつよう》な偏見と、素朴《そぼく》ではあるがしかし不当な内密の敵意とが、いつも存在していた。クリストフ一家の感情もやはりそうであった。彼の祖父はユダヤ人を好まなかった。しかし運命の皮肉によって、彼の音楽の弟子のうち最良の二人は――(一人は作曲家となり、一人は名高い名手となっていた)――ユダヤ人であった。そしてこの善良な祖父は困却していた。なぜなら、その二人のりっぱな音楽家を抱擁したいと思うことがあった。それから、ユダヤ人らが神を十字架につけたことを悲しげに思い出した。そして彼は、その融和しがたい感情をどうして融和すべきかを知らなかった。が結局、彼は、二人を抱擁した。二人は非常に音楽を愛していたから、神も彼らを許してくださるだろうと、彼はおのずから信じがちだった。――クリストフの父のメルキオルは、自由思想家をもってみずから任じていただけに、ユダヤ人から金を取ることをさほど懸念しなかった。ごく結構なことだとさえ思っていた。しかし彼は、ユダヤ人を罵倒《ばとう》し軽蔑《けいべつ》していた。――クリストフの母は、料理人としてユダヤ人の家に雇われて行くと、悪いことをしたと思わないではなかった。そのうえ、彼女を雇った人々は、彼女にたいしてかなり横柄であった。それでも彼女は、それを彼らに恨まず、だれにも恨まず、神から永劫《えいごう》の罰を受けたそれらの不幸な人々にたいして、憐憫《れんびん》の情でいっぱいになっていた。その家の娘が通るのを見かけたり、あるいは子供らのうれしそうな笑い声を聞いたりすると、深く心を動かした。
「あんなに美しい娘が!……あんなにきれいな子供たちが!……なんという不幸だろう!……」と彼女は考える
前へ 次へ
全264ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング