かしら。」
「ええ。これがその手紙よ。自分で来たがってたけれど、やっぱりつかまったの。」
「ではどうしてお前は来られたんだい。」
「こうよ。ロールヘンは憲兵に見つからないで、村に帰ってきて、それからまた出かけようとしたの。けれどゲルトルーデの妹のイルミナが、訴えたもんだから、捕《と》り手が来たのよ。憲兵たちが来るのを見ると、自分の室に上がっていって、すぐに降りてゆく、今着物を着てるから、と言いたてたの。私は裏の葡萄《ぶどう》畑にいたのよ。ロールヘンは窓から、リディア、リディア、って私を小声で呼ぶの。行ってみると、あなたのお母さんからもらってきた鞄《かばん》と手紙を、私に渡して、あなたに会える場所を教えてくれたの。駆けておゆき、つかまらないようにおし、と言われたわ。私は駆け出して、それからここへ来たのよ。」
「それきりなんとも言わなかったの!」
「言ったわ。自分の代わりに来たんだというしるしに、この肩掛も渡してくれって。」
 クリストフは、花の刺繍《ししゅう》と赤い玉のついてるその白い肩掛を見覚えていた。前夜ロールヘンが彼と別れる時、顔を包んでたものだった。彼女がそれを愛の記念に贈るために用いた、ほんとうらしからぬ無邪気な口実を聞いても、彼は笑えなかった。
「あら、」と少女は言った、「もう他《ほか》の汽車が来た。家へ帰らなきゃならないわ。さよなら。」
「まあお待ち。」とクリストフは言った。「来るのに、汽車賃はどうしたんだい。」
「ロールヘンからもらったの。」
「でもこれをもっておいで。」とクリストフは言いながら、彼女の手に数個の貨幣を握らした。
 彼はもう行こうとする少女の腕を取って引き止めた。
「それから……。」と彼は言った。
 彼は身をかがめて、彼女の両の頬《ほお》に接吻《せっぷん》した。少女は拒むような顔つきをしていた。
「いやがってはいけない。」とクリストフは冗談に言った。「お前にではないよ。」
「ええ、よくわかってるわ。」と娘はひやかし気味に言った。「ロールヘンにだわ。」
 クリストフが牛飼いの少女の両の豊頬《ほうきょう》で接吻したのは、単にロールヘンをばかりではなかった。自分のドイツ全体をであった。
 少女は逃げ出して、発車しかけてる汽車の方へ走っていった。彼女は車室の入口に残って、見えなくなるまで彼へハンカチを振っていた。故国と愛する人々との息吹《いぶ》
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