兵士らは殺戮《さつりく》の叫びを発しながら、あらゆる人家に闖入《ちんにゅう》して、あらゆる狼藉《ろうぜき》を働こうとした。百姓らは棒を持って追っかけ、荒れ犬をけしかけていた。第三の兵士が、三叉《みつまた》に腹を刺されて倒れた。他の兵士らは村から追い出されて、逃げ出すよりほかに仕方がなかった。畑を横ぎって逃げながら、仲間を集めてじきにもどってくるぞと、遠くから叫んでいた。
 百姓らは陣地を手中に収めて、飲食店へ帰ってきた。彼らは雀躍《こおどり》して喜んでいた。被《こうむ》っていた迫害の意趣晴らしを、久しく期待していたのが今得られたのであった。争闘の結果にはまだ思い及ぼしていなかった。皆一度に口をきいて、各自に勇気を誇っていた。彼らはクリストフに親密な様子を見せた。クリストフは彼らに近づいた心地がしてうれしかった。ロールヘンは彼のところへ行って手を取り、その鼻先で笑いながら、自分の硬《かた》い手の中に彼の手をしばらく握っていた。彼女はもう彼を滑稽《こっけい》だと思っていなかった。
 人々は怪我《けが》人の世話にかかった。村人のうちには、歯のかけた者、肋骨《ろっこつ》の折れた者、瘤《こぶ》や青痣《あおあざ》ができた者があるばかりで、大した害も被っていなかった。しかし兵士らの方はそうでなかった。三人の者は重傷を受けていた。眼を焼かれ肩を半ば斧《おの》で切り取られてる大男、腹をえぐられてあえいでる男、クリストフからなぐり倒された下士。人々はその三人を、炉のそばに横たえておいた。最も軽傷な下士が眼を見開いた。取り巻いてのぞき込んでる百姓らを、憎悪《ぞうお》のこもった眼つきでじっとながめ回した。そして出来事を思い出すや否や、彼らをののしり始めた。復讐《ふくしゅう》をし思い知らしてやるぞと断言し、怒りに喉《のど》をつまらしていた。できるならみなごろしにしてやるつもりでいることが、それと感ぜられた。人々はつとめて笑った。しかしそれは強《し》いて装《よそお》った笑いだった。一人の若い百姓は、負傷者に叫びつけた。
「黙れ、黙らなきゃぶち殺すぞ!」
 下士は起き上がろうとした。口をきいた男を、血走った眼で見すえながら言った。
「野郎め、殺してみろ! 貴様らの首も取ってやる。」
 彼は怒鳴りつづけた。腹をえぐられた男は、血をしぼられる豚のように鋭い叫びを挙げていた。三番目の男は身動きもしない
前へ 次へ
全264ページ中250ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング