トフはテーブルに両|肱《ひじ》をつきその拳《こぶし》に頤《あご》をのせて、娘の素振りを熱烈な眼で見守っていた。彼の精神はあまりとらわれていなかったので、彼女の狡猾《こうかつ》から欺かれはしなかった。しかしそれからひきつけられないほど自由でもなかった。そしてあるいは憤りの声をもらしたり、あるいはひそかに笑ったりしながら、罠《わな》にかかりかけると肩をそびやかしていた。
 も一人の者が彼の様子をうかがっていた。それはロールヘンの父だった。背が低くでっぷりして、鼻の短い大きな顔で、禿《は》げてる脳天は日にやけ、まわりに残ってる昔の金髪は、デューラーの聖ヨハネのように、厚く巻き縮れてい、髯《ひげ》はすっかり剃《そ》り、冷静な顔つきをし、口の角《かど》に長いパイプをくわえて、彼は他の百姓らとごくゆっくり話しながら、クリストフの無言の身振りを、流し目にうかがっていた。そしてひそかに笑みをもらしていた。やがてちょっと咳《せき》払いをした。小さな灰色の眼の中に、悪意の光を輝かせながら、クリストフのテーブルの横手に来てすわった。クリストフは不快になって、しかめた顔をふり向けた。するとその老人の狡猾《こうかつ》な眼つきに出会った。老人はパイプをくわえたままで、馴《な》れ馴《な》れしく言葉をかけた。クリストフは彼を見知っていた。性質《たち》の悪い老人だと思っていた。しかし娘にたいする弱みから、その父親にたいして寛大になっていて、いっしょにいると妙な喜びをさえ感じた。こざかしい老人はそれに気づいた。彼は天気の晴雨について話し、向こうの美しい娘たちのことや、クリストフが踊らないことなどを、遠回しにひやかしたあとで、踊る労を取らないのはもっとものことであり、酒杯の前に肱《ひじ》をついて食卓にすわってる方がましだと結論した。そして遠慮なく一杯|御馳走《ごちそう》になった。飲みながらも彼は、やはりゆっくりと話していった。こまごました事柄、生活の困難なこと、天気の悪いこと、諸物価の高いこと、などを言い出した。クリストフは不機嫌《ふきげん》な二、三言を返すばかりだった。そのことに興味はなかった。彼はただロールヘンをながめていた。時々沈黙がおちてきた。百姓は彼の一言を待った。しかしなんら答えもなかった。それでまた静かに話しだした。クリストフは、この老人の相手をしその打ち明け話を聞くの光栄に浴する訳を、み
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