《おれ》をどう見てるだろうかしら。」と彼はみずから尋ねた。「俺は彼が見てるところとは非常に異なっている。俺は彼にとっては、彼が望むとおりの人間となっている。彼にとってすべてのものは、彼自身の面影どおりで、彼自身と同じく純潔で高尚である。もし彼がありのままの人生を見たら、彼はおそらく人生に堪え得ないだろう。」
 また彼は今の娘のことを思った。彼女は闇《やみ》に包まれながらその闇を否定し、あるものをないと信じたがり、ないものをあると信じたがってるのであった。
 その時彼は、ドイツの理想主義の偉大さを認めた。彼がそれをあんなにしばしば憎んだのは、それが凡庸《ぼんよう》な魂のうちにおいて、偽善偽君子的愚劣さの源泉となってるからであった。ところが今彼は、大洋中の一孤島のように、世界のまん中に異なった一世界を創《つく》り出してる、この信念の美を認めた。――しかし彼は、自分ではそういう信念を堪えることができなかった。彼はそういう「死人島」へ避難することを肯《がえ》んじなかった……。ただ生命! ただ真理! 彼は嘘《うそ》をつく英雄となりたくなかった。その楽天的虚偽は、おそらく弱者にとっては生きるために必要であったろう。それらの不幸な人々から支持となる幻影を奪い去ることは、クリストフもこれを罪悪だと見なしたかった。しかし彼自身は、そういう欺瞞《ぎまん》に頼り得なかった。彼は幻影に生きるよりはむしろ死を望んでいた……。しかるに、芸術もまた一つの幻影ではないのか?――否、芸術は幻影たるべきではない。真理だ! 真理! 両眼を大きく見開き、全身の気孔から生命の強烈なる気を吸い込み、事物をあるがままにながめ、不幸をも正視し――そして笑ってやることだ。

 数か月過ぎていった。クリストフは自分の町から外へ出る望みを失った。彼を救い得るかもしれなかった唯一人のハスレルは、助力を拒んでしまった。またシュルツ老人の友情も、与えられて間もなく奪い去らるることとなった。
 彼は帰ってから一度シュルツへ手紙を書いた。そして愛情に満ちた手紙を二通受け取った。しかし懶《ものう》い気持のために、ことに考えを文字で書き現わすことが困難だったために、彼はその親愛な文句を感謝するのを遅らした。一日一日と返事を延ばした。そしていよいよ書こうと決心しかけると、クンツから短い便《たよ》りが来て、老友の死を報じた。その報知によ
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