手を差し出した。彼は手を貸してやった。彼女は彼を湿った冷やかな地面にさわらした。彼は彼女の手を離さなかった。二人のからみ合った指は土の中にはいっていた。彼はモデスタを抱擁した。彼女は彼に接吻《せっぷん》した。
 二人は立ち上がった。彼女は摘み取った菫のうち、勢いのいいのを彼に差し出し、しおれたのを自分の胸にさした。二人は膝の塵《ちり》を払ってから、一言もかわさないで墓地を出た。野には雲雀《ひばり》が歌っていた。白い蝶《ちょう》が二人の頭のまわりを飛んでいた。二人はある牧場の中に腰をおろした。村の煙がまっすぐに、雨に洗われた空へ立ち上っていた。静まり返ってる運河が、白楊樹の間に輝いていた。青い光の霞《かすみ》がうっすりと、牧場や森を包んでいた。
 しばらく黙っていた後、モデスタは、あたかも眼が見えるかのように、いい天気のことを低く話した。唇《くちびる》を少し開いて空気を吸い込んでいた。生きものの音を聞き澄ましていた。クリストフもまたそういう音楽の価値を知っていた。彼は彼女が考えながら言い得ないでいる言葉を言った。草の下や空気の奥に聞こえる、かすかな鳴き声や戦《そよ》ぎの名を挙げた。彼女は言った。
「ああ、あなたにもおわかりですか。」
 彼はゴットフリートからそれらを聞き分けることを教わったと答えた。
「あなたも?」と彼女はいくらか不快そうに言った。
 彼はこう言ってやりたかった。
「妬《ねた》んではいけません。」
 しかし彼は、自分たちの周囲に微笑《ほほえ》んでいる聖《きよ》い光を見、彼女の失明した眼をながめ、そしてしみじみと憐《あわ》れを覚えた。
「では、」と彼は尋ねた、「あなたに教えたのはゴットフリートですね。」
 彼女はそうだと答え、前よりは今の方がいっそうよくそれを楽しめるようになったと言った。――(彼女は何より前であるかは言わなかった。盲目[#「盲目」に傍点]という言葉を口にするのを避けていた。)
 二人はちょっと口をつぐんだ。クリストフは同情の念で彼女をながめた。彼女はながめられてるのを感じていた。彼は彼女を気の毒に思ってることを言ってやりたく、彼女から心を打ち明けてもらいたかった。彼はやさしく尋ねた。
「あなたは苦しんだでしょうね。」
 彼女は黙って身を堅くしていた。草の葉をむしり取っては、無言のままそれを噛《か》んでいた。やがて――(雲雀《ひばり》の歌
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