りませんか。世間はほんとに醜くなっていきます。一日一日と悪くなっていきます。……といっても、神様からこんな言葉をしかられはすまいかという気もします。そしてほんとうのことを申せば、世間がどんなにきたなくっても、私はやはり世間を見つづけてゆく方が望みです……。」

 モデスタがまた現われた。話は他へそらされた。クリストフは、もう天気がよくなったので出かけたがった。しかし人々は承知しなかった。彼はやむを得ず、夕食の馳走《ちそう》になって一夜を共にすることとなった。モデスタはクリストフの横にすわって、一晩じゅうそばを離れなかった。彼はこの若い娘の運命を憐《あわ》れんで、しみじみと話をしたかった。しかし彼女はその機会を与えなかった。彼女はただゴットフリートのことを尋ねるばかりだった。クリストフが彼女の知らないことを話してやると、彼女はうれしがるとともにまた多少|妬《ねた》んでいた。彼女の方ではゴットフリートのことを進んで語ろうとしなかった。明らかにすっかり言ってしまいはしなかった。あるいはすっかり言うと、言ったあとで後悔していた。思い出は彼女の財産であって、彼女はそれを他人へ分かちたくなかった。彼女のこの愛情のうちには、おのが土地に執着《しゅうじゃく》してる百姓女のような峻烈《しゅんれつ》さがあった。自分と同じようによくゴットフリートを愛する者がいると考えることは、彼女にとっては不快であった。実際彼女はそういうことを信じたくなかった。クリストフはその心中を読み取って、彼女を満足のままにしておいてやった。彼女の話を聞きながら彼は気づいた、彼女は昔ゴットフリートを眼で見たことがあるにもかかわらず、盲目になってからは、実際とまったく異なった面影を作り出しているということは。彼女はその幻影の上に、自分のうちにある愛の要求をことごとくなげかけてるのであった。何物もかかる幻想の働きを妨げるものはなかった。自分の知らないことをも平気で作り出す盲人通有の、大胆な確信をもって、彼女はクリストフに言った。
「あなたはあの人に似ています。」
 彼が了解したところでは、彼女は数年来、雨戸を閉《し》め切って真実の光のさし込まない家の中に、暮らしつづけてきたのであった。そして、あたりに罩《こ》めてる闇《やみ》の中で見ることを覚え、闇をも忘れるまでになってる今では、闇にさし込む一条の光に会ったら、たぶんそ
前へ 次へ
全264ページ中219ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング