ぼうぜん》として、なんの冗談かと怪しんだ。しかしその盲目の娘と野菜を選り分けてる女とを、代わる代わる見比べたあとには、それも驚くに当たらないことを知った。二人の女は、どこから来たか、どこを通って来たかなどと、親しくクリストフに問いかけた。盲目娘はやや大袈裟《おおげさ》にはしゃいで、話に口を出していた。道路や野に関するクリストフの観察を、承認したり注釈したりした。もとより彼女の言葉はしばしば的をはずれていた。彼女は彼と同様によく眼が見えると思い込みたがってるらしかった。
 家族の他の人たちが帰ってきた。三十歳ばかりの頑丈《がんじょう》な農夫とその若い妻とだった。クリストフは皆と代わる代わる話した。そして晴れゆく空をながめながら、出かける時を待っていた。盲目娘は編み物の針を運びながら、ある唄《うた》の節《ふし》を小声で歌っていた。その節は、クリストフに種々の古い事柄を思い起こさした。
「おや、あなたもそれを知ってるんですか。」と彼は言った。
(ゴットフリートがクリストフにそれを昔教えたのであった。)
 彼は続きを低く歌った。若い娘は笑いだした。彼女は唄の前半を歌い、彼は愉快にそのあとを終わりまで歌った。彼は立ち上がって天候を見に行った。そしてなんの気もなく室の中を隅々《すみずみ》まで見渡すと、戸棚《とだな》のそばの角のところに、ある物を見つけてはっとした。それは頭の曲がった長い杖《つえ》で、粗末な彫刻を施した柄《え》は、身をかがめてお辞儀してる小さな男を現わしていた。クリストフはそれをよく知っていた。昔それで子供心に遊んだことがあった。彼は杖に飛びつき、息つまった声で尋ねた。
「どうして……どうしてこれをおもちですか。」
 男は彼をながめて言った。
「友だちが残していったんです、亡《な》くなった古い友だちが。」
 クリストフは叫んだ。
「ゴットフリートですか。」
 皆彼の方をふり向きながら尋ねた。
「どうして御存じですか。」
 クリストフが、ゴットフリートは自分の叔父《おじ》だと言うと、人々は皆びっくりした。盲目娘は立ち上がった。毛糸の玉が室の中にころがった。彼女は編み物をふみつけながらやって来て、クリストフの手をとってくり返した。
「あなたが甥《おい》ごさんですか。」
 皆が一度に口をきいていた。クリストフの方でも尋ねた。
「でもあなた方は、どうして……どうして御存じ
前へ 次へ
全264ページ中214ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング