》段とを恐れてもう長くはいったこともない窖《あなぐら》へ、爪先立《つまさきだ》って降りていった。いちばんよい葡萄《ぶどう》酒の瓶《びん》を選んだ。上がって来る時に頭をひどく天井にぶっつけた。葡萄酒瓶の籠《かご》をかかえて梯子段を上りきった時には、息が切れてしまうような思いをした。それから木鋏《きばさみ》をもって庭へ行った。いちばん美しい薔薇《ばら》や初咲きの枝を、容赦なく切り取った。次に自分の室へ上がり、あわただしく髯《ひげ》を剃り、一、二か所|怪我《けが》をし、ていねいに服装を整え、そして停車場へ出かけた。七時だった。ザロメがいくら言っても、彼は牛乳一滴も飲まなかった。クリストフも朝食を取らないでやって来るに違いないから、停車場から帰っていっしょに食べるのだと、彼は言っていた。
 彼は四十五分前に停車場へ着いた。そしてクリストフを待ちわびながら、ついに見はずしてしまった。我慢して出口で待ってることができないで、プラットホームへ出て行き、乗降客の渦《うず》の中にまごついた。電報の明確な指示があるにもかかわらず、もしかしたら、クリストフは他の列車で来るかもしれないと彼は想像した。それにまた、クリストフが四等車から降りて来ようとは、思いもつかなかった。彼はなお三十分以上も停車場に残って、クリストフを待ってみた。クリストフはもうだいぶ前に到着して、まっすぐに彼の家を訪れて行ったのだった。さらに間《ま》の悪いことには、ザロメが買い物に出かけたところだった。クリストフが行くと門が閉《し》まっていた。ザロメは隣りの人に、だれかが来たらすぐに帰ると言ってくれるようにとだけ頼んでおいたので、隣人はそれだけを伝えて何にも言い添えなかった。クリストフは、ザロメに会いに来たのでもなければ、ザロメとは何者であるかをも知らなかったので、冗談にも程があると思った。大学音楽会長のシュルツ氏はこの地にいないのかと、彼は尋ねた。いるという答えだったが、どこへ行ってるのかわからなかった。彼は怒って立ち去った。
 シュルツ老人は、がっかりした顔つきでもどってき、同じくもどったばかりのザロメから、事情を聞いた時には、途方にくれてしまった。泣き出さんばかりになった。自分の不在中に出かけて、クリストフを待たしておくだけの取り計らいさえしないでいる、召使の馬鹿さ加減を憤った。ザロメも同じ怒った調子で、待ってる人
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