旋《がいせん》であった。
老人は身体じゅうを震わした。あたかも友だちから手を取られて駆けさせられる子供のように、あえぎながらその厳《おごそ》かな音楽についていった。胸が動悸《どうき》した。涙が流れた。彼はつぶやいた。
「ああ、神よ!……神よ!……」
彼はすすり泣きを始め、また笑っていた。幸福だった。息がつまった。激しく咳《せ》きこんだ。老婢《ろうひ》のザロメが駆けつけてきた。彼女は老人が死にかけてるのかと思った。彼はなお続けて、涙を流し咳《せ》きこみ、そしてくり返していた。
「ああ神よ!……神よ!……」
そして咳の発作から発作へ移る短い間の時間に、彼は快い鋭い笑いをもらしていた。
ザロメは彼が狂人になったのだと思った。それから、その激情の原因を知ると、彼を荒々しく責めたてた。
「つまらないことでそんなになるということがあるものですか!……それを私にお渡しなさい。もっていってしまいます。もうあなたにはお目にかけません。」
しかし老人は、なお咳き込みながらもしっかりしていた。構わないでくれとザロメに叫んだ。彼女が強情を張ると、彼は癇癪《かんしゃく》を起こし、怒鳴りつけ、喉《のど》をつまらしながらののしった。彼女はかつて、彼がそんなに憤って対抗してくるのを、見たことがなかった。彼女はびっくりして、手を引いた。しかしきびしい言葉をやめなかった。彼を狂人爺《きちがいじい》さんだとして、言い進んだ、今まではりっぱな人だと思っていたが、しかしそれは自分の思い違いだった、車夫でさえ顔を赤らめるようなひどいことを言い、眼は顔から飛び出し、その眼がもしピストルだったら、自分は殺されるところだった、などと……。彼女のそういう悪態はいつまでつづくかわからなかった。しかし彼は猛然と枕《まくら》蒲団《ふとん》の上に身を起こして叫んだ。
「出て行きなさい!」
それがいかにも厳然たる調子だったので、彼女は扉《とびら》をばたりと閉《し》めて出て行った。出て行きながらも、もういくら呼ばれたって来やしない、勝手に一人で怒鳴るがよい、などと言い捨てて行った。
そして、夜の影が広がり始めてる室の中には、ふたたび静寂が落ちて来た。会堂の鐘は夕《ゆうべ》の平和の中にふたたび、その落ち着いた奇怪な響きをたてていった。シュルツ老人は激昂《げっこう》したのをやや恥じながら、じっと身を反《そ》らしてあえぎ
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