く陰気で、見知らぬ人影が、まったくの他人であり無関係である人影が、どれも皆忙しそうに足を早めながら、出入りしていて、一人の知人もなく、一の親しい顔もなかった。蒼白《あおじろ》い明るみは消えてしまった。霧に包まれた電燈が、夜の中に点々とともって、夜をいっそう暗くしてるがようだった。時がたつにつれてクリストフはますます切ない気持になり、出発の時間を苦しげに待っていた。間違えていないことを確かめるために、一時間に十度も時間表を見直しに行った。そして時間つぶしに、それを隅々《すみずみ》までまた読み返してると、ある地名にはっとした。どうも覚えがあるようだった。やがてそれは、いかにも親切な手紙をくれたシュルツ老人の土地であることが、思い出された。この見知らぬ友を訪れてみようという考えが、慌《あわただ》しい中にもすぐに浮かんできた。その町は直接の帰途には当たっていなくて、支線を一、二時間ばかりの所だった。長い時間待って二、三度乗り換えをしながら、夜通しの旅になるのだった。クリストフは何にも計算に入れなかった。そこへ行こうとすぐにきめた。同情にすがりたいという本能的な欲求があった。考える暇も待たずにすぐ電報を打って、翌朝着くことをシュルツに知らした。がその電報を出すか出さないうちに、もう後悔した。いつに変わらぬおのれの幻が苦笑された。何故にまた新たな苦しみの方へ向かって行くのか?――しかしもう済んだあとだった。変更するには間に合わなかった。
 それらの考えのうちに待ち残した時間は過ぎた。――彼の乗るべき汽車がついに仕立てられた。彼はまっ先に乗り込んだ。彼はまったく子供らしくなっていて、ようやく息がつけるようになったのは、汽車が動き出して、灰色の空の中に、もの悲しい驟雨《しゅうう》の下に、夜の落ちかかってる都会の影が消えてゆくのを、車窓から見送った時からであった。そこで一晩過ごしたら死ぬかもしれないような気がしていた。
 ちょうどその時――午後六時ごろ――ハスレルの手紙がクリストフあてで旅館に届いた。クリストフの訪問によって、彼は心に多くの動揺を受けたのだった。午後じゅう彼は心苦しく考えていた。あれほど熱烈な愛情をいだいてやって来ながら、自分の冷淡な待遇を受けた憐《あわ》れな青年にたいして、同情の念が湧《わ》かないでもなかった。彼は自分の応対をみずからとがめた。実を言えば彼の方では、
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