いながらハスレルが、足を引きずってやって来るのを耳にした。
彼ははいってきた。クリストフは胸迫る思いをした。彼はハスレルを見覚えていた。ああむしろ見覚えがなかったら? それはまさしくハスレルであった、がまたハスレルではなかった。やはりその大きな額《ひたい》には皺《しわ》もなく、その滑《なめ》らかな顔は子供のようだった。しかし頭は禿《は》げ、身体は肥満し、顔色は黄色く、眠そうな様子をし、下唇は少したれ下がり、退屈そうな不機嫌《ふきげん》な口つきをしていた。肩を曲げ、はだけた上着のポケットに両手をつき込み、足には破れ靴《ぐつ》を引きずっていた。ボタンもかけ終わっていないズボンの上には、シャツがたくね上がっていた。彼は半ば眠っている眼でクリストフをながめた。クリストフが自分の名前をつぶやいても、その眼は輝かなかった。彼は無言のまま自動的な礼を返し、頭でクリストフに席をさし示し、溜息《ためいき》をつきながら安楽|椅子《いす》にどっかとすわり、その羽蒲団《はねぶとん》を身のまわりにつみ重ねた。クリストフはくり返した。
「前に一度……いろいろ御親切を……クリストフ・クラフトという者でございますが……。」
ハスレルは、安楽椅子に深くすわり込み、長い両足を組み合わせ、頤《あご》の高さまで来てる右|膝《ひざ》の上に、痩《や》せた両手を握り合わせていたが、答え返した。
「覚えないね。」
クリストフは喉《のど》をひきつらしながら、昔面会したことを向こうに思い出させようと試みた。しかしそういう親しい思い出を語ることは、いかなる事情においても彼には困難であった。そして目下の事情においては一つの苦悩であった。彼は文句にまごつき、適当な言葉が見当たらず、馬鹿なことを言っては顔を赤らめた。ハスレルはぼんやりした無関心な眼でじっと見つづけながら、彼を言い渋るままに放《ほう》っておいた。クリストフがようやく話を終えると、ハスレルはあたかも彼がまだ言いつづけるのを待ってるかのように、しばらく黙ったまま膝をゆすっていた。それから言った。
「そう……だがそんな話で若返りはしないね……。」
そして彼は伸びをした。
欠伸《あくび》をした後彼は言い添えた。
「……失敬……眠らなかったものだから……昨晩劇場で夜食をしたので……。」
そしてふたたび欠伸をした。
クリストフは今話したことについてハスレルか
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