らは赤裸々な真実の前に眼を瞬《またた》いた。しかしクリストフは喜んだ。彼は光明を愛していたのである。けれど彼もやはり、あちらこちらで小さな不安を覚えた。彼はそういう放肆《ほうし》な独立に慣れていなかった。最も自由であってもやはり規律に慣れてるドイツ人にとっては、それは無政府らしく思われた。そのうえクリストフは、フランス人の皮肉さに迷わされた。彼はある事柄をあまり真面目《まじめ》に取りすぎた。また断然たる否定であるある事柄が、彼には反対に冗談的逆説と思われた。だがそれはとにかく、彼はびっくりしたり不快を覚えたりしながらも、少しずつひきつけられていった。彼は種々の印象を分類することはやめた。一つの感情から他の感情へと移っていった。生きていた。フランスの物語――シャンフォールやセギュールや父デューマやメリメなどが乱雑につみ重ねられてる物語――の快活さが、彼の精神を暢々《のうのう》とさしてくれた。そして時々あるページからは、もろもろの革命の強く荒い匂《にお》いがむくむくと立ち上っていた。
 明け方近くになって、隣室に眠っていたルイザが眼を覚《さ》ますと、クリストフの室の扉《とびら》の隙間《すきま》から、光の漏れるのが見えた。彼女は壁をたたいて、病気ではないかと彼に尋ねた。椅子《いす》が床の上にきしった。扉が開《あ》いた。そしてクリストフがシャツだけで、一本の蝋燭《ろうそく》と一冊の書物とを手にし、厳粛で滑稽《こっけい》な妙な様子をして現われた。ルイザははっとして、気が狂ったのだと思いながら寝床の上に身を起こした。彼は笑いだして、蝋燭を振りながらモリエールの一節を朗読した。ある文句のまん中で放笑《ふきだ》した。息をつくために母の寝台の足下にすわった。光は彼の手の中で震えていた。ルイザはほっとしてやさしくしかった。
「どうしたの、どうしたのさ! 行ってお寝《やす》みよ。……まあ、ほんとうに馬鹿になったんだね。」
 しかし彼はますます機嫌《きげん》よく言い出した。
「これを聞くんですよ。」
 そして彼は枕頭《ちんとう》に腰をすえて、その脚本を初めから読み直してきかせた。彼はコリーヌを見るような気がした。彼女の大袈裟《おおげさ》な音調を聞くような気がした。ルイザは言い逆らった。
「あっちへおいでよ、おいでったら! 風邪《かぜ》をひくじゃないか。厭《いや》だね、眠らしておくれよ。」

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