を尋ね、懇篤で道義的な忠告を与えていた。安楽|椅子《いす》――それもごく堅いものだったが――の上には、小さな羽蒲団《はねぶとん》が敷かれていて、その羽蒲団は親しげにささやいていた。
「どうか十五分間ばかりでも!」
 クリストフに出されたコーヒー茶碗《ぢゃわん》は、も一杯飲むように勧めていた。
「も一口どうぞ!」
 御馳走皿《ごちそうざら》は、もとよりりっぱな料理に道徳を加味していた。一つの皿は言っていた。
「万事をお考えなさい。そうでないと何にもいいことが起こりますまい。」
 も一つの皿は言っていた。
「愛情と感謝とは人を喜ばせます。忘恩はだれでもきらいます。」
 クリストフは少しも煙草《たばこ》を吸わなかったが、暖炉の上の灰皿は彼の方へ進んで来ないではいなかった。
「火のついた煙草の小さな休み場所。」
 彼は手を洗おうとした。すると化粧台の上のせっけんは言った。
「われわれの親愛なる客人のために。」
 そして謹直な手ぬぐいは、何にも言うことがないのにやはり何か言わなければいけないと思ってるごく丁重な人のように、ごく良識的ではあるがしかしあまり適宜でない考えを、「朝を楽しむために早く起きなければいけない」ということを、彼に注意した。
「朝の時間は口に黄金を含んでいます。」
 クリストフは椅子《いす》に掛けたまま、室の隅々《すみずみ》から響いてくる他の種々の声に呼びかけられるのを聞くことを恐れて、ついにはもう振り返ることもできなくなった、彼は其奴《そいつ》らに言ってやりたかった。
「黙らないか、畜生め! お前たちの言うことはさっぱりわからない。」
 すると彼は突然大笑いに駆られた。そして主人夫妻に、先刻の学校の集まりを思い出したからだと、苦しい説明をした。どんなことがあっても彼らの気分を害したくなかった。そのうえ、彼は滑稽《こっけい》なことにあまり敏感ではなかった。彼は間もなく、それらの物品や人たちの饒舌な懇篤さに馴《な》れてしまった。彼らに向かって何を恕《じょ》しがたいことがあったろう。いかにも善良な人たちだった。嫌《いや》な人物ではなかった。趣味は欠けていたにしても、知力は欠けていなかった。
 彼らはやって来たばかりのこの土地でいささか途方にくれていた。田舎《いなか》の小都市の堪えがたい猜疑《さいぎ》心は、その一員となるの名誉を正式に懇願しないと、他人が勝手にはい
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