足な心でながめた。クリストフは水に陥っていた。人々はそれぞれ力を尽くして、彼の頭を下に押し沈めようとした。
彼らは皆いっしょになって彼へ飛びかかっては来なかった。ある者が最初に陣地を探るため攻撃してきた。クリストフが応戦をしないので、彼はさらに攻撃を重ねた。すると他の者らもついて来た。それから全隊が進んで来た。ある者らは、美しい場所に汚物を残して面白がる若い犬のように、単なる楽しみからその騒ぎに加わっていた。それは無能な新聞記者らから成る別動隊であった。まったく無知であって、それを人に知らせないために、勝者に阿諛《あゆ》し敗者をののしる奴《やつ》らだった。また他の者らは、おのれの主義主張の重みをもち出し、やたらにがなりたてていた。彼らが通ったあとには何物も残らなかった。偉大な批評――虐殺の批評であった。
クリストフは幸いにも、それらの新聞を読んでいなかった。忠実な四、五の友人は、そのもっとも毒々しいのを注意して送ってくれた。しかし彼はそれをテーブルの上につみ重ねたまま、開こうとも思わなかった。がついに彼の眼は、ある記事の周囲に引かれてる太い赤線に止まった。読んでみると、彼の歌曲《リード》は野獣の唸《うな》り声に似ており、彼の交響曲《シンフォニー》は癲狂院《てんきょういん》から発する趣きがあり、彼の芸術はヒステリー的であり、彼の痙攣《けいれん》的な和声《ハーモニー》は心情の乾燥と思想の空粗とをごまかそうとしたものである、などと書いてあった。その著名な批評家は次のように結んでいた。
[#ここから2字下げ]
クラフト氏は近ごろ報道記者として、その文体および趣味に驚くべきものがあることを証明し、音楽界に一大|快哉《かいさい》を叫ばしめた。その時彼は親しく、むしろ作曲に没頭するよう勧告せられた。しかし彼の最近の音楽的創作は、この好意的勧告が誤れることを示した。クラフト氏は断然報道記者となるべきであった。
[#ここで字下げ終わり]
クリストフはそれを読んで、朝じゅう仕事ができなかったが、なおやけに落胆してしまうために、敵意ある他の新聞を捜し始めた。しかしルイザは、「片付ける」という口実のもとに、なんでも散らかってる物をなくなす癖があって、それらの新聞を焼いてしまっていた。彼は初めそれを怒ったが、次には安堵《あんど》した。残ってたその新聞を母に差し出しながら、これも同
前へ
次へ
全264ページ中133ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング