すね。」と彼は機嫌《きげん》よく言った。
彼女は彼をしみじみとした様子でながめ、強くその両手を振り動かして言った。
「お友だちにね。」
「お友だち!」と彼も手を振り返しながら言った。
「このコリネットがここから発《た》ってしまっても、忘れないでくださるわね。このフランスの女が真面目でないったって、それを恨みはなさらないわね。」
「そしてあなたの方でも、この野蛮なチュートン人がいくら馬鹿だって、それを恨みはしないでしょうね。」
「それだからかえって好きなのよ。……パリーへも会いに来てくださるわね。」
「ええきっと。……そして私に手紙をくださるでしょうね。」
「誓うわ。……あなたもそれを誓ってちょうだいよ。」
「誓います。」
「いいえ。そうじゃないのよ。手を出さなくちゃいけないわ。」
彼女はオレースの誓いを真似た。また彼女は、自分のために一篇の曲を、插楽劇《メロドラマ》を、書くことを彼に約束さした。彼女はそのフランス訳をパリーで演ずるつもりだった。彼女は仲間とともに翌日出発することになっていた。彼らが一興行するフランクフルトまで、彼は翌々日会いに行くと約束した。二人はなおしばらくいっしょにしゃべった。彼女はクリストフに、ほとんど半身裸体の写真を一枚贈った。彼らは兄妹のように抱擁しながら、快活に別れた。そして実際コリーヌは、クリストフが自分をよく愛してはいるが決して恋してはいないことを、それと見て取ってからは、仲のいい友だちとして恋愛なしに、自分もまた彼を愛しだしたのであった。
そのために二人の眠りは、どちらも妨げられなかった。彼は翌日、別れの言葉を告げることができなかった。彼はその時、ある音楽会の下稽古《したげいこ》につかまっていたからである。しかしその次の日に、彼は都合をつけて約束どおりフランクフルトへ行った。汽車で二、三時間ばかりだった。コリーヌはクリストフの約束をほとんど信じていなかった。しかし彼の方はきわめて真面目《まじめ》だった。そして、開演の時間に彼はそこへ着いていた。幕間《まくあい》に彼は行って、彼女の支度《したく》部屋の扉《とびら》をたたいた。彼女は喜ばしい驚きの叫び声をたてて、彼の首に飛びついてきた。彼が来てくれたことを心からありがたがっていた。ただクリストフにとっては不幸にも、彼女はこの町では、彼女の現在の美と将来の成功とを鑑識し得る富裕|怜悧
前へ
次へ
全264ページ中110ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング