「あんたは利口なのをたいそう御自慢ね。私よりも自分の知恵の方を余計愛しているんだわ。」
「僕はお前を愛してるんだ、ひどいことを言う奴《やつ》だね、お前が自分の身を愛してるよりもっと深くお前を愛してるんだ。お前が美しくって善良であればあるほど、ますます僕はお前を愛するんだ。」
「まるで学校の先生みたいね。」と彼女はむっとして言った。
「だってさ、僕は美しいものが好きなんだ。醜いものはきらいだ。」
「私のうちにあっても?」
「お前のうちにあるとことにそうだ。」
 彼女は荒々しく足をふみ鳴した。
「私は批評されたかありません。」
「それじゃ、僕がお前をどう思ってるか、そしてどんなに愛してるか、それを不平言うがいいよ。」と彼は彼女の心を和らげるためにやさしく言った。
 彼女は彼の腕に抱かれるままになって、微笑《ほほえ》みをさえ浮かべ、彼に接吻《せっぷん》を許した。しかしやがて、もう忘れたころだと彼が思ってる時に、彼女は不安そうに尋ねた。
「あんたは私のどういうところを醜いと思ってるの?」
 彼は用心してそれを彼女に言わなかった。卑怯《ひきょう》な答えをした。
「何にも醜いと思ってるところはな
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