遠くで鳴った。二人は抱擁から身を離した。乗船場へ大急ぎで駆けつけなければならなかった。二人は無言のまま、腕と手とを組み合せ、たがいに歩調を合せながら出かけた――彼女の気性どおりの素早いてきぱきした小足で。街道は寂しかった。平野に人影もなかった。十歩と先は見えなかった。二人は好ましい闇夜の中を、晴やかな安心しきった心地で歩いていった。道の小石につまずきもしなかった。遅れていたので近道をとった。小道は葡萄《ぶどう》畑の間をしばらく降りたあとに、また上り坂になり、丘の中腹を長くうねっていた。霧の中に河の音が聞え、近づいて来る船の推進輪の高い響きが聞えてきた。二人は道を捨てて畑の中を駆けだした。ついにライン河の岸に着いた。しかし乗船場まではまだかなりあった。それでも二人の晴やかな気持は変らなかった。アーダは夕の疲労をも忘れていた。二人はそのまま、月の光のように仄《ほの》白く浮出してる河に沿うて、ますます湿っぽくますますこまやかに漂っている靄《もや》の中を、ひっそりしてる草の上を、夜通しでも歩けられそうな気がしていた。船の汽笛が鳴って、その眼に見えない怪物は重々しく遠ざかっていった。二人は笑いな
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