していて、この七月の麗わしい日に、ちょうど今ごろは野を散歩してるだろうと思うと、しかも自分は、口やかましい母の傍らに、山のように堆《うずたか》い繕《つくろ》い物とともに、室の中に閉じこもってるのに、と思うと、彼女は息がつまるような気がした。そして自分の自尊心をのろった。ああ、もしまだ間に合うなら?……だが間に合ったとしても、やはり彼女は同じことだったろう……。
粉屋は自分の腰掛馬車をやって、クリストフとザビーネとを迎えさした。二人は途中で、数人の招待客を乗せてやった。天気はさわやかでかわいていた。野の中の桜の実の赤い房が、うららかな太陽に輝いていた。ザビーネは微笑《ほほえ》んでいた。その蒼ざめた顔は、清新な空気のため薔薇《ばら》色になっていた。クリストフは膝《ひざ》の上に女の子をのせていた。二人はたがいに話そうとしなかった。だれ構わず隣の者に、そして何事にかかわらず、ただ話しかけた。そしてたがいの声を聞いて満足し、同じ馬車で運ばれてるのに満足した。人家や樹木や通行人などをたがいにさし示しては、子供らしい喜びの眼つきをかわした。ザビーネは田舎《いなか》が好きであった。しかしほとんど行っ
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