した。けれども自分の身については、見栄をよくしようとは少しも気を配らなかった。クリストフは最初にちらりと見ただけで、醜い無様《ぶざま》な娘だと判断してしまった。彼女の方では彼にそのような判断は下さなかった。だがむしろそのような判断を下すべき理由は十分あったに違いない。なぜならクリストフは、疲れはて、忙しく働き、服装《みなり》にも注意しないでいて、平素よりいっそう醜くなっていたから。しかしだれのことをも少しも悪く思えないローザは、自分の祖父や父や母を完全にきれいだと見なしていたローザは、予期どおりの姿でクリストフを見てしまって、心から彼に感嘆した。食卓で彼の隣にすわると、非常に気恥ずかしかった。そして不幸にも、その気恥ずかしさは饒舌《じょうぜつ》となって現われた。そのためにクリストフの同情は一挙にぶちこわされた。彼女はそれに気づかないで、その第一夜は、輝かしい思い出となって頭に残った。新しく来た借家人たちがその部屋《へや》へ上った後、彼女は自分の室にただ一人で、彼らの歩き回る足音を頭の上に聞いた。その足音は彼女のうちに愉快な響きを伝えた。家じゅうが蘇《よみがえ》ったように思われた。
翌日、彼女は初めて、不安げに注意しながら自分の姿を鏡に映してみた。そして自分の不幸の大いさをまだはっきり知りはしなかったが、それでも不幸を予感し始めた。自分の顔だちを一々判断しようとつとめたが、どうもうまく分らなかった。悲しい懸念にとらえられた。深い溜息をついて、装いを少し変えてみた。それでもますます醜くなるばかりだった。そのうえ生憎《あいにく》な考えをいだいて、種々な世話でクリストフをうるさがらした。新しい知人たちにたえず会い、用をしてやろうという、単純な希望に駆られて、始終階段を上り降りし、そのたびごとに不用な品物をもって来、しつこく手伝いをしたがり、そして常に笑いしゃべり叫んでいた。ただ母親の苛立《いらだ》った声に呼び立てられる時だけ、彼女はその熱心と話とを中止した。クリストフは厭《いや》な顔つきをしていた。もしつとめて我慢しなかったら、幾度となく癇癪《かんしゃく》を起こすところだった。彼は二日間辛抱した。三日目には扉《とびら》に錠をおろした。ローザは扉をたたき、呼び声をたて、それと悟り、当惑して降りてゆき、そしてもう二度と始めなかった。彼は彼女に会った時、急ぎの仕事にとりかかって
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