たが、他人の容貌《ようぼう》については非常にやかましかった。彼は青年の落ちつき払った残忍さをもっていて、女がもし醜い時には――少なくとも、人に愛情を起こさせるべき年齢を過ぎていず、真面目《まじめ》な穏かなほとんど宗教的な感情をもつまでに達していない時には、そういう醜い女は、彼にとっては存在しないも同じだった。そのうえローザは、怜悧《れいり》でないでもなかったが、これといって特別の才能をそなえてはいなかった。そしてまた、クリストフを逃げ回らせるほどの饒舌《じょうぜつ》な習慣で毒されていた。それでクリストフは、彼女のうちになんにも知るに足るべきものはないと判断して、あえて知ろうともしなかった。たかだか彼女の方へちょっと眼を向けるくらいのことだった。
 けれども彼女は、多くの若い娘たちよりもましであった。クリストフがあれほど愛したミンナよりも確かにまさっていた。媚態《びたい》もなく虚栄心もない善良な少女で、クリストフがやって来たころまでは、自分が醜いということに気づきもせず、それを気にしてもいなかった。なぜなら、周囲の人たちも彼女の不器量を気にしていなかったから。祖父や母が、しかる時にそれを言いたてることがあっても、彼女はただ笑うばかりだった。彼女はそれを信じていなかったし、あるいはそれを大したことだとも思っていなかった。そして祖父や母の方も同じだった。彼女と同じくらいに醜い女やもっと醜い多くの女も、自分を愛してくれる男を見出していたではないか! ドイツ人は、肉体上の欠点にたいしては幸福な寛容さをもっている。彼らはそれを見ないでいられる。あらゆる顔だちと人間美の最も有名な模範的顔だちとの間に、意外な関係を発見するところの勝手な想像力によって、欠点を美化することさえもできる。オイレル老人をして、自分の孫娘はリュドヴィジのジュノーに似た鼻をもってると断言させるには、彼に多く説きたてるの要はなかったろう。ただ幸いにも、彼はきわめて小言家《こごとや》でお世辞を言わなかったまでである。そしてローザも、自分の鼻の格好には無頓着《むとんじゃく》で、素敵な家庭的義務を典例に従って履行することばかりを、自ら誇りとしていた。人から教え込まれるすべてのことを、福音書の言葉のように受けいれていた。家から出かけることはほとんどなかったので、比較の対象をあまりもたなかったし、家の者たちを率直に感嘆し
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