、自分の恥ずかしいこと、凡庸なこと、卑劣なこと、誓いを破ったこと、などを話した。
「叔父さん、どうしたらいいでしょう? 僕は望んだ、たたかった。そして一年たっても、やはり前と同じ所にいる。いや同じ所にもいない! 退歩してしまった。僕はなんの役にもたたない、なんの役にもたたないんです。生活を駄目《だめ》にしてしまったんです、誓いにそむいたんです!……」
 二人は町を見晴す丘に上りかけていた。ゴットフリートはやさしく言った。
「そんなことはこんどきりじゃないよ。人は望むとおりのことができるものではない。望む、また生きる、それは別々だ。くよくよするもんじゃない。肝腎《かんじん》なことは、ねえ、望んだり生きたりするのに飽きないことだ。その他のことは私たちの知ったことじゃない。」
 クリストフは絶望的にくり返した。
「僕は誓いに背いたんです!」
「聞こえるかい?……」とゴットフリートは言った。
 (田舎《いなか》で鶏が鳴いていた。)
「あの鶏《とり》も皆、誓いに背いただれかのためにも歌ってるんだ。私たちのめいめいのために、毎朝歌ってくれる。」
「もう僕のために、」とクリストフは切なげに言った、「鶏も歌ってくれない日が来るでしょう……明日のない日が。そして僕の生活はどうなってることでしょう?」
「いつだって明日はあるよ。」とゴットフリートは言った。
「でも、望んだってなんの役にもたたないんなら、どうしたらいいでしょう?」
「用心をするがいい、そして祈るがいい。」
「僕はもう信じていないんです。」
 ゴットフリートは微笑《ほほえ》んだ。
「信じていないとしたら、生きていられないはずだ。だれでも信じてるものだ。祈るがいいよ。」
「何を祈るんです?」
 真赤《まっか》な冷たい地平線に出かかってる太陽を、ゴットフリートは彼にさし示した。
「日の出にたいして、信心深くなければいけない。一年後のことを、十年後のことを、考えてはいけない。今日《こんにち》のことを考えるんだよ。理屈を捨ててしまうがいい。理屈はみんな、いいかね、たとい道徳の理屈でも、よくないものだ、馬鹿げたものだ、害になるものだ。生活に無理をしてはいけない。今日《こんにち》に生きるのだ。その日その日にたいして信心深くしてるのだ。その日その日を愛し、尊敬し、ことにそれを凋ませず、花を咲かすのを邪魔しないことだ。今日《きょう》のよう
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