見出すことであったろう。彼はその中に身をのがれることができたであろう。しかし両家はまったく不和になっていた。もうたがいに顔を合せることもなかった。ただ一度、クリストフはローザに出会った。彼女はミサから出て来るところだった。彼は彼女に近寄るのを躊躇《ちゅうちょ》した。彼女の方は、彼の姿を見ると、やって来ようとする様子をした。しかし彼がついに、石段を降りてる信者たちの人波を分けて、彼女に近づこうとすると、彼女は眼をそらした。彼がそばまで行くと、彼女は冷やかに挨拶《あいさつ》をして、そのまま通り過ぎた。彼はその若い娘の心の中に、強い冷酷な軽蔑《けいべつ》の念があるのを感じた。彼女がやはり自分を愛していて、それをうち明けたがってることを、彼は感じなかった。彼女はしかしその愛を、罪ででもあるようにみずからとがめていた。クリストフを不良で堕落してると信じ、ますます自分と縁遠いものであると信じていた。かくて二人はたがいに永久に取失った。そしてそれは、どちらにとっても、かえっていいことだったろう。彼女は善良ではあったが、彼を理解するには十分の生活力がなかった。彼は愛情と尊重とをほしがってはいたが、喜びも苦しみも空気もない閉じこもった凡庸《ぼんよう》な生活では、息がつけなかったろう。で二人は苦しむことになるわけだった――たがいに苦しませるのを苦しむことになるわけだった。それで結局、二人を隔てた不運は、往々あるように――常にあるように、強壮で永続する者にとっては、幸運であった。
 しかし当座の間、それは二人にとっては大きな悲しみであり、不幸であった。ことにクリストフにとってそうだった。最も多く知力をそなえた者から知力を奪い去り、最も善良な者から善良さを奪い去るかの観がある、その仮借なき徳操、その狭小な心は、彼を苛立《いらだ》たせ、彼を傷つけ、反発心によって彼をより放恣《ほうし》な生活に投げ入れたのである。
 クリストフはアーダとともに近郊の酒場をぶらついてるうちに、数人の面白い若者と――浮浪者らと、知り合いになっていた。彼らのやり口の呑気《のんき》さと自由さとは、彼にはさほど不快ではなかった。その一人のフリーデマンというのは、彼と同じく音楽家で、オルガニストであって、三十ばかりの年配、才知もあり、自分の職務にも堪能《たんのう》だった。しかし救うべからざる怠惰者《なまけもの》で、その凡庸
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