制限もなくすっかり愛しきろうとしたので、かえって最もよく相手の欠点を感ずるのであった。それは一種の無意識的な公明さであり、やむにやまれぬ真実の欲求であって、そのために彼は、最も親愛なる人にたいして、ますます洞察《どうさつ》的になりますます気むずかしくなるのだった。かくて彼は家主一家の人々の欠点にたいして、ひそかな憤懣《ふんまん》をやがて感ずるにいたった。彼らの方では、少しも自分の欠点を隠そうとはしなかった。厭《いや》なところをすっかりさらけ出していた。そして最もよいところは彼らの内部に隠れていた。クリストフも実際そう考えて、そして自分の不正をみずからとがめながら、最初の印象を脱し去ろうと試み、彼らが大事に隠している長所を見出してやろうと試みた。
彼はユスツス・オイレル老人と話をすることにつとめた。老人も話が好きだった。彼は祖父がこの老人を愛して激賞していたことを覚えてるので、老人にたいしてひそかな同情を感じていた。好人物のジャン・ミシェルは、クリストフよりもなおいっそう、友人の上に幻を築き上げる幸福な能力をもっていたのである。クリストフもそのことに気づいていた。彼は祖父にたいするオイレルの思い出を知ろうとつとめたが無駄であった。彼がオイレルから引き出し得るものは、ジャン・ミシェルのかなりおかしな色|褪《あ》せた面影と、なんの面白みもない断片的な会話の文句ばかりだった。オイレルの話はいつもきまってこういう言葉で始められた。
「あの気の毒なお前のお祖父《じい》さんに私がいつも言ってたとおり……。」
オイレルは自分で言ったことより以外には、何にも耳に止めていなかった。
恐らくジャン・ミシェルの方でも、同じような聴《き》き方をしていたであろう。多くの友誼《ゆうぎ》は、他人相手に自分のことを語るための、相互|阿諛《あゆ》の結合にすぎない。しかし少なくともジャン・ミシェルは、冗弁の楽しみにあれほど無邪気にふけってはいたが、やたらに注ぎかける同情心をももっていた。彼は何にでも興味をもった。新時代の驚くべき発明を目撃したり、その思想に関係したりするために、もう十五年とは生き延びられないことを残念がっていた。彼は生活の最も大切な長所をそなえていた、すなわち、長い年月にも少しも衰えないで毎朝また蘇《よみがえ》ってくる新鮮な好奇心を。ただその天性を利用するだけの十分な才能をもってい
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