て最も激昂《げっこう》したのは、ユスツス・オイレルとフォーゲル一家だった。クリストフの不品行は、直接身に受けた侮辱のように彼らには思われた。それでも彼らは、なんら真面目《まじめ》な計画を彼の上にすえてるのでもなかった。彼らは――ことにフォーゲル夫人は――芸術家気質なるものを軽蔑《けいべつ》していた。しかし彼らは、元来苦労性の精神をもっていたし、運命に苦しめられてると信じがちな精神をもっていたので、クリストフとローザとの結婚が実現されそうもないことがいよいよ確かになると、その結婚に執着していたのだとみずから思い込んだ。そしてそこに例の不運の一つの兆《しるし》を見てとったのである。もし運命が彼らの違算の責を帯びるものとするならば、理論上クリストフには責任がないはずだった。しかしフォーゲル一家の者の理論は、苦情を言うべき理由を最も多く見出し得させるような理論であった。それで彼らは、クリストフが不品行をするのも、単に彼一個の楽しみのためばかりではなく、また自分らを侮辱せんがためにである、と判断した。そのうえ彼らは、不品行そのものをも忌みきらった。彼らはきわめて信仰深く、道徳心強く、家庭的の徳義心に厚かったので、そういう人たちの例として、彼らの考えによれば、肉欲の罪は最も恥ずべきものであり最も重大なものであり、また唯一の恐るべきものであるから唯一の罪とも言えるのであった。――(相当の者なら決して窃盗や殺害の心は起こすものでないということは、あまりに明らかなことだった。)――それでクリストフは徹頭徹尾正しからぬ者だと彼らには思われた。彼らは彼にたいする態度を変えた。彼が通りかかると、冷酷な顔つきをして横を向いた。クリストフの方では、彼らと話をしたくも思ってはいなかったので、それらの澄し込んだ様子を見るごとに肩をそびやかした。アマリアは彼を軽蔑して避けるようなふうをしながらも、心にたまってることを言ってやるために、しきりに彼と接する機会を作りたがっていたが、彼はその無礼な仕打ちをも見ないふりをしていた。
クリストフが心打たれたのは、ただローザの態度だけであった。この少女は家族のだれよりもいっそうきびしく彼を非難した。それは、クリストフの新しい恋が、彼から自分が愛される機会を、まったく破壊してしまうように思われるからではなかった。彼女はそういう機会が一つもないことを知っていた――
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