的な憂鬱病者[#「陰気な非ギリシャ的な憂鬱病者」に傍点]」と呼んでいた、あの不幸な人間の一人であった。
 アマリアはどちらとも異っていた。強健で、騒々しく、活発で、夫の愚痴をきいても少しも気の毒と思わなかった。夫を荒々しく励ましていた。しかし常にいっしょに住んでいると、いかなる力もくじけるものである。一つの家庭において、二人のいずれかが神経衰弱だと、数年後には、二人とも神経衰弱になってることがしばしばである。アマリアはフォーゲルに強い言葉をかけはしたが、すぐその後では、彼よりもなおひどくみずから嘆くようになった。荒々しい素振りから悲嘆へと急激に移っていって、少しも夫のためにはならなかった。些細《ささい》なことにも騒々しく騒ぎたてながら、かえって彼の病を募らした。そしてついには、わずかな愚痴にもそういう大|袈裟《げさ》な反響を返されるのにおびえきってる不幸なフォーゲルを、すっかり圧倒してしまったばかりでなく、また自分自身をも圧倒してしまった。こんどは自分から、自分の丈夫な健康状態や、父や娘や息子の丈夫な健康状態などについて、理由もないのに嘆くようになった。それが一種の病癖となった。そして何度も口に上せるために、しまいにはそれをほんとうと思い込んだ。ちょっとした風邪《かぜ》をも大袈裟に考えた。すべてが不安の種となった。丈夫に暮してると、後《あと》で病気になりはすまいかと考えて気をもんだ。そういうふうにして、生活は絶えざる杞憂《きゆう》のうちに過ぎていった。けれども、そのためにだれも加減が悪くなる者はなかった。その絶え間もない嘆きの習慣が、皆の健康を維持するのに役だってるがようだった。だれも皆平素のとおり、食い眠り働いていた。一家の生活はそのために弛緩《しかん》してはいなかった。アマリアの活動的な性質は、朝から晩まで、家の上から下まで、始終動き回っても満足しなかった。まわりの者まで皆精を出さなければ承知しなかった。そして家具を動かしたり、敷石を洗ったり、床石をみがいたりして、声や足音が立ち乱れ、たえず忙しく騒々しかった。
 二人の子供は、だれにも安閑としてることを許さないその騒ぎ好きな権力のもとに圧伏されて、それに服従するのが自然だと思ってるらしかった。男の子のレオンハルトは、なんとなくきれいな顔つきで、几帳面《きちょうめん》な様子をしていた。少女のローザは、金髪で、青い
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