、無作法にも大公爵の真似《まね》をする言葉を聞くと、彼は快い恐れからかすかな戦慄《せんりつ》を感じた。クリストフはそういうふうにして自分が友の上に及ぼしてる幻惑に気づいた。そして攻撃的な気分をさらに誇大してみせた。あたかも老革命家のように、社会の約束と国家の法則とをくつがえす言葉を発した。オットーは眉《まゆ》をしかめまた歓喜して、それに耳を傾けた。そして調子を合わせようとこわごわながらつとめた。しかし、だれかに聞かれやすまいかと用心深くあたりを見回すのであった。
 二人でいっしょに散歩していると、クリストフは禁札を見るごとにかならずその畑の柵《さく》を飛び越してはいった。あるいは所有地の壁越しに果物《くだもの》をつみ取った。オットーは人に見つかりはすまいかと心配した。しかしそういう心遣《こころづか》いは彼にとって特別な喜びだった。夕方家に帰ると、自分が勇者であるような気がした。彼はこわごわクリストフを賛美していた。彼の服従的な本能は、他人の意思に従うのみである友情のうちに、自己満足を見出していた。クリストフはかつて彼に決心する骨折りをかけなかった。彼は自分で万事をきめ、一日をどうして暮
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