フを殴ってその金を奪い取るところを、また見かけた時、もう我慢ができなかった。そして泣いてる子供といっしょに、手紙を取りに行き、それを子供に渡して言った。
「行っておいで!」
 クリストフはまだ躊躇《ちゅうちょ》した。けれども、家に残ってるわずかなものまですっかり消費しつくされまいとすれば、もはや他に方法はないと覚《さと》った。彼は宮邸へ出かけた。二十分ほどの道を行くのに一時間近くかかった。自分のしてることが恥ずかしくてたまらなかった。この数年間の孤立のうちにつのっていた彼の高慢心は、父の不品行を公然と認定するという考えに、血をしぼるほど切なかった。妙なしかも自然な矛盾ではあったが、彼はその不品行がすべての人にわかってるということを知ってながら、しかも執拗《しつよう》にそうでないと信じたがり、何にも気づかないふうを装っていた。それを認めるよりもむしろ自分を粉微塵《こなみじん》にされたかった。そして今や、自分から進んで!……彼は幾度となく引返そうとした。宮邸に着こうとするとまた足を返しながら、二三度町を歩き回った。しかし自分一人の問題ではなかった。母にも弟どもにも関係のあることだった。父が
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