を大半失ってしまった。貧苦が家にはいってきた。
メルキオルがそれをなおひどくした。彼は縛られてた唯一の監督から解放されると、いっそうよく働くどころか、まったく不品行に身を任してしまった。ほとんど毎夜のように、酔っ払ってもどって来、稼《かせ》いだものを少しももち帰らなかった。それに稽古《けいこ》口もおおかた失っていた。ある時、まったく泥酔《でいすい》の姿をある女弟子の家に現わした。その破廉恥な行ないの結果、どの家からも追い払われた。管弦楽団の間では、父親の追懐にたいする敬意からようやく許されていた。しかしルイザは、今にもふしだらをして免職になりはすまいかと、びくびくしていた。すでにもう彼は、芝居の終るころようやく奏楽席にやって来た晩なんかは、解職すると言っておどかされていた。二、三度は、やって来ることをまったく忘れたことさえあった。それからまた、無茶なことを言ったりしたりしたくてたまらなくなる馬鹿げた興奮の場合には、どんなことでもやりかねなかった。ある晩なんかは、ワルキューレ[#「ワルキューレ」に傍点]のある幕の最中に、自分のヴァイオリン大|協奏曲《コンセルト》をひきたいと考えついた。
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