られる侮辱的なののしりや叱責《しっせき》のもとに、ついに頭を垂れてしまった。それでもやはり、またせしめてやろうと次の機会をねらうのであった。ジャン・ミシェルは将来のことを考えながら、きたるべき悲しいことどもをはっきりと感じた。
「かわいそうな子供たち、」と彼はルイザに言っていた、「もしわしがいなくなったら、皆どうなるだろう。……でも幸いとわしは、」とつけ加えながらクリストフの頭をなでた、「この子がどうにかやってくれるようになるまでは、まだ達者でおられるだろう。」
 しかし彼は見当違いしていた。彼はもう生涯の終りに達していた。そしてまただれもそれに気づかなかった。彼は八十歳を過ぎてるのに、髪の毛もそろっており、まだ灰色の毛の交った白い頭髪はふさふさとして、濃い頤髯《あごひげ》には真黒な毛筋も見えていた。歯は十枚ばかりしか残っていなかったが、それで強く噛《か》みしめることができた。食卓についた様子を見ると心強かった。頑健《がんけん》な食欲をもっていた。メルキオルには飲酒を非難していたが、自分は盛んに飲んでいた。モーゼルの白|葡萄《ぶどう》酒をとくに好んでいた。そのうえ、葡萄酒も、ビールも、
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