ではなかった。彼女には善良な友情だけで十分だった。彼女は冷静な官能とやさしい精神とをもっていた。
彼女は娘の教育に一身をささげていた。愛し愛されようという妬《ねた》み深い女の要求が、ただその子供をのみ対象とするようになると、母親というものは往々過激な病的なところを帯びてくるものであるが、ケリッヒ夫人が愛についてもっていた節度は、それをよく軽減していた。彼女はミンナを愛撫《あいぶ》していたが、しかし明確な判断をミンナにくだして、その欠点を一つも見落そうとしなかったし、実際以上の幻をかけようなどとはさらにしなかった。明敏で賢い彼女は、的確な眼をもっていて、人の弱点や滑稽《こっけい》な点を一目に見てとることができた。悪意は少しもなかったが、それを見てとるのを愉快がっていた。彼女は嘲弄《ちょうろう》的な気質と寛大な気質とをともに具えていたのである。そして人を揶揄《やゆ》しながらも、人の世話をするのが好きだった。
少年のクリストフは、彼女の親切と批評的精神とに活動の機会を与えた。彼女がこの小都会へやって来た初めのうちは、大喪《たいそう》のために社会から遠ざかっていたので、クリストフが気晴らし
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