えていた。相手を河に投込むことができないとすれば、自分でそこに飛び込んだがましかもしれない、と彼は考えてみた。野の中で彼は夜を明した。黎明《れいめい》のころ、祖父の家へ行って戸をたたいた。老人はクリストフが見えなくなったことを非常に心配していたので――その夜一睡もしていなかった――彼を叱《しか》るだけの勇気もなかった。彼はクリストフを家に連れて行った。家の者もわざとなんとも言わなかった。彼がまだやはり激昂《げきこう》状態にあるのがわかったのである。そして彼を大目に見てやらなければならなかった。なぜなら彼は宮廷の晩の演奏に出ていてくれたから。しかしメルキオルは、皆の恥になるようなつまらない奴らにも、みごとな生活やりっぱな態度の見本を示してやろうと、いかに骨を折ってるかということを、ぐずぐず訴えて――それもとくにだれに向かって言うのでもないようなふうを装って――数週間の間、クリストフを厭がらした。そして伯父のテオドルは、往来でクリストフに出会うと顔をそむけ鼻をつまんで、深い嫌悪の情をありったけ見せつけた。
 彼は家の者から同感されることが少なかったので、できるだけ家にじっとしていなかった。
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