わだち》の中に、枯葉の上に身を伏せ、息をこらして待ち受けた。吠声は止んだ。犬は獲物の足跡を見失ったのである。遠くでも一度吠えるのが聞えた。それから林の中はひっそりとしてしまった。物音一つ聞えなかった。ただ、昆虫《こんちゅう》や青虫など、たえず森をかじって破壊する無数の生物の、神秘な蠢動《しゅんどう》の音が聞えるばかりだった――決してやむことのない規則正しい死の息吹《いぶ》きである。二人の少年は耳を傾けた、身動きもしなかった。ついにがっかりして起き上がりながら、「もうおしまいだ、来やすまい、」と言おうとした。がちょうどその時、一匹の小兎《こうさぎ》が茂みから飛び出して、彼らの方へまっすぐにやって来た。二人は同時にそれを見つけて、喜びの声をあげた。兎は飛び上がって、横の方へ躍《おど》り込んだ。立木の中にまっさかさまに飛び込んでゆくのが見えた。すれ合う木の葉の戦《そよ》ぎが、水面の船跡のように消えていった。二人は声をたてたのを後悔したが、その出来事で心が愉快になった。兎のあわてた飛び方を考えながら、大笑いをした。クリストフはおかしな様子でその真似《まね》をした。オットーも同じくやった。それから二人は追っかけっこをした。オットーは兎になり、クリストフは犬になった。垣根《かきね》をつきぬけたり溝《みぞ》を飛び越したりして、林や牧場を駆け降りた。麦畑の真中に飛び込んで、百姓に怒鳴りつけられた。二人はなおやめなかった。クリストフは実にうまく犬の嗄《しわが》れた吠声を真似たので、オットーはおかしさのあまり涙を出して笑った。ついには、狂人のように叫びながら斜面を転げ降りた。もはや声も出なくなると、そこにすわって、笑ってる眼で顔を見合った。今はもうまったく幸福で、みずから満足しきっていた。もはやえらい友人のようなふうをしようとしなかったからである。あるがままの心を率直にさらけ出していた。二人の子供になりきっていた。
彼らは別に意味もない唄《うた》を歌いながら、腕を組み合わして帰って行った。けれども、町にもどりかけると、またそれぞれ様子ぶる方がいいように考えた。そして林の出はずれの木に、二人の頭字を組み合わして彫りつけた。しかしその感傷的な気分は、上|機嫌《きげん》な心にうち負けた。帰りの汽車の中では、顔を見合わすたびに大笑いをした。たがいに別れる時には、すばらしく愉快な一日を過ごした
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