とがあった。しかしクリストフはたくましい拳固《げんこ》を持っていたし、自分の権利を自覚していた。弟どもを服従さしてしまった。それでも彼らはやはり、彼に勝手なことをしてやめなかった。彼の信じやすい性質につけ込んで、罠《わな》を張ると、彼はきっとそれにかかった。彼らは金を欺き取り、厚かましい嘘《うそ》をつき、そして陰では彼を嘲《あざけ》った。人のいいクリストフは、いつも陥《おとしい》れられてばかりいた。彼は人から愛されたい強い要求をもっていたので、一言やさしいことを言われると、もうすっかり恨みを忘れてしまった。わずかな愛情を得るためには、なんでも許してやったに違いない。しかしある時、彼らは虚偽の愛情で彼を抱擁し、涙を流すほど彼を感動さしておいて、それに乗じて、かねてほしがっていた大公爵からの贈物の金時計を奪い取ってしまい、その後で彼の馬鹿さ加減を笑ったが、彼はその笑声を聞いてから、信頼の念はひどく動揺した。彼は弟どもを軽蔑していたが、それでもやはり、人を信じ人を愛する不可抗な性癖から、つづいて欺かれてばかりいた。彼はみずからその性癖を知り、自分自身にたいして腹をたてていて、弟どもがまたも自分を玩具《おもちゃ》にしてるのを発見すると、ひどく殴り飛ばしてやった。けれどもその後で、彼らから面白がって釣《つり》針を投げられると、ふたたびそれにすぐ引っかかるのだった。
 なおそれにもまさった苦しみが彼にはあった。父が自分のことを悪く言ってるのを、おせっかいな近所の人々から聞かされた。メルキオルは初め息子の成功に得意然としていたが、後には恥ずべき弱点を暴露して、それを嫉妬《しっと》するようになった。彼は息子の成功をくじこうとした。それは嘆くも愚かなことだった。ただ軽侮の念から肩をそびやかすのほかはなかった。腹もたてられなかった。なぜならメルキオルは、自分のやってることに自覚がなかったし、失意のためにひねくれていたから。クリストフは黙っていた。もし口をきいたらあまりひどいことを言うようになるだろうと恐れていた。しかし心では恨めしくてたまらなかった。
 悲しい寄合い、夕、ランプを取り囲み、汚点のついた布卓の上で、つまらない世間話や貪《むさぼ》り食う頤《あご》の音の間でする、一家そろうての夕食! しかも彼はそれらの人々を、軽侮し憐れみながらも、やはり愛せずにはいられないのである。そして彼
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