などと、よそへ行って嘆かずにはおかなかった。あるいはまたクリストフから金を引出そうとつとめて、あらゆる阿諛《あゆ》や策略を用いた。それを見るとクリストフは、心にもなく笑いだしたくなるほどだった。そしてクリストフがしっかりしてるので、メルキオルは言い張りはしなかった。自分を判断してるその十四歳の少年の厳格な眼の前に出ると、不思議に気圧《けお》されるのを感じた。悪い手段をめぐらしてひそかに意趣晴しをした。酒場へ行って飲んだり食ったりした。金は少しも払わないで、息子が借りをみな払ってくれるのだと言った。クリストフは世間の悪評をつのらしはすまいかと気遣って、別に抗議をもち出さなかった。そしてルイザとともに、財布の底をはたいてメルキオルの借りを払っていた。――ついにメルキオルは、給料を手にしなくなってからは、ヴァィオリニストの職務をますます等閑《なおざり》にするようになった。そして欠勤があまり激しくなったので、クリストフの懇願にもかかわらず、しまいには追い払われてしまった。それで子供は、父と弟どもなど全家を、一人で支持してゆかなければならなくなった。
かくてクリストフは、十四歳にして家長となった。
彼は決然としてその重い役目を引受けた。彼は自尊心から、他人の恵みに与《あずか》ることを拒んだ。独力できりぬけてゆこうと決心した。母が恥ずかしい施与《せよ》を受けたり求めたりしてるのを見て、彼は幼いころから非常に心を痛めていた。人のいい母が、保護者のもとから何かの恵みを受けて、得意然と家にもどって来ると、いつもそれが争論の種となった。彼女はそれを少しも悪いことだとは思わなかったし、またその金で、少しでもクリストフの骨折りを省《はぶ》くことができ、粗末な夕食に一|皿《さら》多く加えることができるのを、喜びとしていた。しかしクリストフは顔を曇らした。その晩じゅう口をきかなかった。そういうふうにして得られた食物へは、理由も言わないで手をつけることを拒んだ。ルイザは気をもんだ。下手《したで》に息子を説きすすめて食べさせようとした。彼は強情を張った。彼女はついにいらだってきて、不愉快なことを口にのぼせた。彼もそれに言い返してやった。それから彼はナプキンを食卓の上に投げすてて出て行った。父は肩をそびやかして、彼を生意気な奴だと言った。弟らは彼を嘲《あざけ》って、彼の分をも食べてしまった。
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