れは、クリストフの忿怒《ふんぬ》を面白がってるからではなかった。否反対に、彼はその忿怒を恐れていた。それでも彼はクリストフを苦しめて、自分の力を確かめるのだった。彼は意地悪くはなかったが、女の子のような心をもっていた。
で彼は約束にもかかわらず、フランツや他の友だちと腕を組合わしてるところを、なおつづいて見せつけた。彼らはいっしょに大騒ぎをし、彼はわざとらしく笑っていた。クリストフが苦情をもち出すと、彼はそれを嘲笑《あざわら》って、本気にとるような様子を見せなかった。そしてついに、クリストフが眼の色を変え、憤りに唇を震わすのを見ると、彼もまた調子を変え、心配そうな様子をし、もう二度としないと約束した。けれども翌日にはまたそれを始めた。クリストフは激しい手紙を書いて、彼にこう呼びかけた。
「下司《げす》野郎、もう貴様のことなんか聞くもんか。もう赤の他人だ。どっかへ行っちまえ、貴様のような犬どもは!」
しかし、オットーが涙っぽい一言を書き送るか、あるいは一度実際やったように、永久に変わらない心を象徴する一輪の花を送るかすれば、それだけでクリストフの心は後悔の念に解け、次のような手紙を書くのだった。
「わが天使よ、ぼくは狂人だ。ぼくの愚蒙《ぐもう》を忘れてくれ。君は最もりっぱな人だ。君の小指一本だけでも、この馬鹿なクリストフ全体より優《まさ》っている。君は賢いやさしい愛情の宝をもっている。ぼくは涙を浮べて君の花にくちづけする。花はここに、ぼくの心臓の上にある。ぼくはそれを、拳《こぶし》を固めて肌《はだ》の中に押しこむのだ。それでぼくは自分の血を流したい、君の麗わしい温情とぼくの恥ずかしい愚かさとを、いっそう強く感ずるようにと!……」
けれども彼らはたがいに倦《あ》き始めていた。小さな諍《いさか》いは友情を維持するものだというのは、誤りである。クリストフは非道な態度をとるようにオットーから仕向けられるのを恨んでいた。彼はよく反省しようとつとめ、自分の専横をみずからとがめた。彼の誠実な激越な性質は、初めて愛を味わうと、それに自分の全部を与えるとともに、また向うからも全部を与えてもらいたかった。彼は友情を分つことを許さなかった。友にすべてをささげるの覚悟でいた彼は、友の方でも自分にすべてをささげるのが、正当でまた必然のことでさえあると考えていた。しかし彼は、世の中は自分の
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