親しく談笑していた。クリストフは蒼《あお》くなって、彼らが街路の曲り角《かど》に見えなくなるまで、その後を見送った。彼らは少しもクリストフの姿に気づかなかった。クリストフは家に帰った。一片の雪が太陽の面をかすめたようなものだった。すべてが薄暗くなった。
次の日曜に会った時、クリストフは初めなんとも言わなかった。しかし三十分ばかり散歩した後に、彼はしぼるような声で言った。
「水曜日に、君をクロイツ街で見かけたよ。」
「そう!」とオットーは言った。
そして彼は赤くなった。
クリストフはつづけて言った。
「君は一人じゃなかったね。」
「ああ、」とオットーは言った、「いっしょだった。」
クリストフは唾《つば》をのみ込み、平気を装った調子で尋ねた。
「あれはだれだい?」
「従弟《いとこ》のフランツだ。」
「そうか。」とクリストフは言った。
それからちょっと後にまた言った。
「君は従弟《いとこ》のことをぼくに話したことがなかったね。」
「ラインバッハに住んでるんだ。」
「たびたび会うのかい。」
「時々こっちへやって来るよ。」
「そして君も、向うへ行くのかい。」
「時々だ。」
「そうか。」とクリストフはまた言った。
オットーは話題を変えてもかまわなかったので、嘴《くちばし》で木をつついてる一匹の小鳥をさし示した。二人は他のことを話した。十分ばかりしてから、クリストフはまた突然言い出した。
「君たちは気が合うのかい?」
「だれと?」とオットーは尋ねた。
(だれとだか彼にはよくわかっていた。)
「従弟とさ。」
「ああ合うよ。どうして?」
「いやなんでもないんだ。」
オットーはいつも悪い冗談でからかわれるので、従弟をあまり好まなかった。しかし妙な意地悪な本能から、やがてこうつけ加えて言った。
「たいへんやさしいよ。」
「だれが?」とクリストフは尋ねた。
(だれがだか彼にはよくわかっていた。)
「フランツさ。」
オットーはクリストフの言葉を待った。しかしクリストフは聞こえなかったようなふりをしていた。榛《はん》の枝を杖に切っていた。オットーはまた言った。
「面白い奴だよ。いつでもいろんな話を知ってるよ。」
クリストフは平然と口笛を吹いた。
オットーはますます言いつのった。
「そして実に頭がよくて……上品で……。」
クリストフは肩をそびやかした。こう言うがようだった。
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