立って彼女がどんなに心を痛めたか、それを彼は夢にも知らなかった。
 幼い眼の中に蓄えられてる驚くべき涙の量を、最後の一滴まで流しつくした後に、彼は少し気分がやわらいだ。彼は疲れていた。しかし神経があまり緊張していてよく眠れなかった。半ばうとうとしていると、先刻の種々な面影が浮かび出てきた。とくによく見えてきたのは、あの女の子であって、その輝いてる眼、人を軽んずるようにぴんとはね上がってる小さな鼻、肩に垂れてる髪の毛、露《あら》わな脛《すね》、子供らしいまた勿体《もったい》ぶった言葉つき、などまではっきり浮かんできた。彼はその声がまた聞えるような気がして身を震わした。彼女にたいしてどんなに自分が馬鹿げていたかを思い起こした。そして荒々しい憎悪を感じた。辱《はずか》しめられたことが許せなかった。そしてこんどは向うを辱しめてやろうと、彼女を泣かしてやろうと、たまらない願望に駆られた。彼はその方法を種々考えたが、一つも思いつかなかった。彼女がいつか自分に注意を向けようとは、どこから見ても考えられなかった。しかし心を安めるために、彼は万事が願いどおりになるものと仮定した。で彼は、自分がたいへん強
前へ 次へ
全221ページ中79ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング