《きし》ってる車の心棒と馬の蹄《ひづめ》とがくり返した、「先へ行くな!」
 祖父と馬車の主人とは、際限もなくしゃべりつづけて飽かなかった。彼らはしばしば声を高めた。とくにその地方の事柄や損害の話の時そうだった。子供は夢想するのをやめて、心配そうに彼らを眺めた。たがいに腹をたててるように思われたし、おしまいには殴り合いになりはすまいかと気遣《きづか》われた。しかし実際はそれとまったく反対で、共通の憤懣《ふんまん》のうちに最もよく話が合ってる時だった。けれどもたいていは、少しの憤懣も熱情ももっていないことが多かった。彼らは自分たちに関係もない事柄を話題にして、下層の者らが喜びとするところと同じように、ただわめきたてる快楽のために喉《のど》いっぱいの大声を出していた。しかしクリストフは彼らの会話の意味が分らないので、ただその激しい声ばかりを耳にし、ひきつってる顔立を眺めて、心を痛めながら考えた。「こいつは人が悪そうな様子をしてる。二人は仲が悪いに違いない。こいつはあんなに眼をぎょろつかしてる、あんなに大きく口を開いてる。疳癪《かんしゃく》まぎれに私の顔まで唾《つば》を飛ばした。ああ、お祖父《
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