かし彼はそちらを向くことも握手することも承知しなかった。メルキオルは耳を澄して、まだやまないでいる喝采を値踏みしていた。そしてクリストフをも一度舞台に連れ出そうとした。しかし子供は猛然とそれを拒み、祖父の上着にしがみついて、近寄る者を足で蹴飛《けとば》した。しまいには涙にむせんだ。彼をそのままにしておかなければならなかった。
ちょうどその時、一人の官員がやって来て、大公爵が音楽家らを桟敷《さじき》に呼んでいられると告げた。子供をこんなありさまでどうしてお目にかけられよう? メルキオルは憤ってののしった。そして彼の怒りは、ますますクリストフを泣かせるばかりだった。その涙を止めさせるために祖父は、泣きやんだらチョコレートを一斤やろうと約束した。食いしんぼうのクリストフはぴたりと泣きやんで、涙をのみ込み、連れてゆかれるままになった。しかし不意に舞台へ連れ出しはしないということを、まず堅く誓ってやらなければならなかった。
貴賓席にはいると、クリストフは短上衣を着た人の前にすわらせられた。それは、子犬のような顔をし、逆立った口髯《くちひげ》を生《は》やし、とがった短い頤髯《あごひげ》を生やし
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