長がまだ席についていなかった。きっと病気かもしれなかった……。幕の向うで人々が動き回っていた。話声や忙しい足音が聞えていた。何か起こったのではないかしら、思わぬ不幸がわいてきたのではないかしら……。また静かになった。楽長が自分の位置についた。すっかり準備が整ったらしかった……。でもまだ始まらない! いったいどうしたんだろう。――彼は待遠しくてじりじりしていた。――ついに合図の柝《き》の音が響いた。彼は胸がどきどきした。管弦楽は序曲を奏しだした。そしてクリストフは数時間の間、深い幸福のうちに浸った。その幸福を煩わすものはただ、もうおしまいになりはすまいかという考えばかりだった。

 それからしばらくして、音楽上の一事件がクリストフの考えを刺激した。彼を驚嘆せしめた最初の歌劇《オペラ》の作者たるフランソア・マリー・ハスレルが、やって来ることになった。そして自作の音楽会を指揮することになった。町じゅうの者が興奮した。この若い楽匠は、ドイツで激しい議論の種となっていた。そして半月ほどの間は、町じゅう彼の噂《うわさ》でもちきった。いよいよ彼が到着するとまた特別だった。メルキオルの友人やジャン・ミ
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