ではね回るのを見ながら、彼は人のよさそうに笑っていた。そしていつも例の持論に立ちもどった。「それはよく書いてあるかもしれない、しかしなんの意味ももってはいない。」――かつて彼は家で催される小演奏会に臨席するのを好まなかった。楽曲がいかほどりっぱであろうと、彼は欠伸《あくび》をやりだして、退屈でぼんやりしたふうをしていた。やがて辛抱できないで、こっそり逃げ出した。彼はいつも言っていた。
「ねえ、坊や、お前が家の中で書くものは、みんな音楽じゃない。家の中の音楽は、室内の太陽と同じだ。音楽は家の外にあるのだ、神様のさわやかな貴い空気を少しお前が呼吸する時にね。」
 彼はいつも神様のことを口にのぼせていた。彼は二人のクラフトと違って、きわめて信仰深かった。二人のクラフト、父と子とは、金曜日の斎日《さいじつ》に肉食することを注意して避けながらも、神を恐れない者だと自任していたのである。

 突然メルキオルは、なぜだかわからないが、意見を変えた。祖父がクリストフの逸品を集めてることに賛成したばかりでなく、クリストフが非常にびっくりしたことには、その原稿から二、三の写しをいく晩もかかってこしらえ上げた。それについて人から尋ねられると、彼は勿体《もったい》ぶった様子をして、「今にわかるよ」と答えるきりだった。あるいはまた、笑いながら手をこすったり、戯れらしいふうで子供の頭を強くなでたり、彼の尻《しり》をたたいたりした。クリストフはそういうなれなれしさを非常に嫌《きら》った。しかし父が満足してることはわかっていた。そしてその理由はわからなかった。
 それから、メルキオルと祖父との間に秘密な相談が行なわれた。そしてある晩クリストフは、クリストフみずから少年の快楽[#「少年の快楽」に傍点]を大公爵レオポルト殿下にささげたということを聞いて、非常に驚いた。メルキオルは、その敬意を嘉納《かのう》せられる思召《おぼしめ》しが大公爵にあるということを、前から匂わしていた。そこで、得意然たるメルキオルは、一刻も猶予《ゆうよ》なく次のことをしなければならないと宣言した。第一、大公爵に公《おおやけ》の申請をすること――第二、作品を発表すること――第三、その作品を聞かせるために音楽会を催すこと。
 メルキオルとジャン・ミシェルとは、なお長い相談をし合った。二晩三晩の間、彼らは勢い込んで論じ合った。だれも
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