ちょっと見せた。クリストフは少しむっとして尋ねた。
「なぜ笑うんだい!」
 ゴットフリートは言った。
「ああおれは、おれはつまらない者さ。」
 そして子供の頭をやさしくなでながら尋ねた。
「じゃあお前は偉い人になりたいんだな。」
「そうだよ。」とクリストフは得意げに答えた。
 彼はゴットフリートからほめられることと信じていた。しかしゴットフリートはこう答え返した。
「なんのために?」
 クリストフはまごついた。考えてから言った。
「りっぱな歌をこしらえるためだよ!」
 ゴットフリートはまた笑った。そして言った。
「偉い人になるために歌をこしらえたいんだね、そして歌をこしらえるために偉い人になりたいんだね。お前は、尻尾《しっぽ》を追っかけてぐるぐる回ってる犬みたいだ。」
 クリストフはひどく癪《しゃく》にさわった。他の時なら、いつも嘲弄《ちょうろう》している叔父《おじ》からあべこべに嘲弄されるのに、我慢ができなかったかもしれない。そしてまた同時に、理屈で自分を困らすほどゴットフリートが利口であろうとは、かつて思いも寄らないことだった。彼はやり返してやるべき議論か悪口かを考えたが、何も見当たらなかった。ゴットフリートはつづけて言った。
「おまえがもし、ここからコブレンツまでもあるほど偉大な人になったにしろ、たった一つの歌もとうていできやすまい。」
 クリストフはむっとした。
「もしこしらえたいと思ったら!……」
「思えば思うほどできないもんだ。歌をこしらえるには、あのとおりでなけりゃいけない。お聴《き》きよ……。」
 月は、野の向うに、丸く輝いてのぼっていた。銀色の靄《もや》が、地面に低く、また鏡のような水の上に、漂っていた。蛙《かえる》が語り合っていた。牧場の中には、蟇《がま》の鳴く笛の音の旋律《メロディ》が聞こえていた。蟋蟀《こおろぎ》の鋭い顫音《トレモロ》は、星の閃《ひらめ》きに答えてるかと思われた。風は静かに、榛《はん》の木の枝を戦《そよ》がしていた。河の上方の丘から、鶯《うぐいす》のか弱い歌がおりてきた。
「何を歌う必要があるのか?」とゴットフリートは長い沈黙の後にほっと息をして言った――(自分自身に向かって言ってるのかクリストフに向かって言ってるのかわからなかった)――「お前がどんなものをこしらえようと、あれらの方がいっそうりっぱに歌ってるじゃないか。」
 
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