さやきだした。どんなにかハスレルのように音楽家になりたいこと、ハスレルのようにりっぱなものを作りたいこと、偉い人になりたいこと。平素恥ずかしがりやだった彼も、今は心からうち解けて話した。しかも何を言ってるのか自分でもわからないで、ただ恍惚《こうこつ》としていた。ハスレルはその饒舌《じょうぜつ》を笑っていた。彼は言った。
「大きくなったら、りっぱな音楽家になったら、ベルリンへ私を訪《たず》ねておいでよ。力になってあげるから。」
クリストフはあまり嬉《うれ》しくて答えができなかった。ハスレルは彼をからかった。
「いやなの?」
クリストフは厭《いや》じゃないとうなずくために、五、六度強く頭を動かした。
「では約束したね?」
クリストフはまた無言の首肯《うなずき》を始めた。
「せめて私に抱きついておくれ。」
クリストフはハスレルの首のまわりに両腕を投げかけ、力いっぱいにしめつけた。
「やあ、着物が濡《ぬ》れるじゃないか。もう放してくれ。鼻をかんだらどうだね。」
ハスレルは笑っていた。そして手ずから、恥ずかしがりながらも嬉しがってる子供の鼻をかんでやった。彼は子供を下に降ろし、それから手を取って、食卓のところへ連れてゆき、そのポケットにいっぱい菓子をつめ込んでやり、放しながら言った。
「さよなら! 約束を覚えておいでよ。」
クリストフは幸福の中に浸っていた。もはや他の世界は存在しなかった。彼はハスレルのあらゆる顔付や身振りをなつかしげに見守っていた。そして彼の一言に胸を打たれた。ハスレルは杯を手にして、何か口をきいていたが、その顔がにわかにひきつった、そして言った。
「今日のような愉快な日の喜びにも、われわれは敵を忘れてはいけません。人は決しておのれの敵を忘れてはいけません。われわれが蹂躙《じゅうりん》されなかったとしても、それは敵のせいではなかったのです。敵が蹂躙《じゅうりん》されないとしても、それはわれわれのせいではないでしょう。それゆえに今私は、乾杯の辞として、われわれが……その健康を祝したくない人々も世にはあるということを申したいのです。」
人々は皆、その独特な乾杯の辞を喝采《かっさい》し興《きょう》がった。ハスレルも皆といっしょに笑い出して、上|機嫌《きげん》な様子に返った。しかしクリストフは当惑していた。自分の偉人の行動を論議することをみずから肯《が
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