け彼の乱暴な態度を避けようとした。それにまた全聴衆は、作品そのものよりもむしろその成功の方により多く魅せられて、感激しきっていた。終りに、拍手|喝采《かっさい》の嵐《あらし》が起こって、それとともにトロンペットは、ドイツの習慣として、勝利者に敬意を表するためその揚々たる響きをたてた。クリストフはそれらの名誉が自分に向けられたかのように、得意の念に躍《おど》り上がった。ハスレルの顔が子供らしい満足の色に輝いているのを、彼は見て楽しんだ。女は花を投げ、男は帽子を振った。聴衆は群り立って舞台の方へ押し寄せた。皆楽匠と握手をしたがっていた。感激した一人の婦人が彼の手を唇にもってゆくのを、また他の婦人が楽譜台の隅《すみ》に置かれてる彼のハンケチを盗んでるのを、クリストフは眼に止めた。クリストフ自身もまた、楽壇に上ってゆきたかった。しかしそれがなぜであるかはまったくわからなかった。というのは、もしその時ハスレルのそばにいたら、彼は感動のあまりすぐに逃げ出したであろうから。でも彼は自分とハスレルとを隔てる人々の着物や足の間に、自分の頭を梃《てこ》のようにつき込んでいた。――彼はあまり小さすぎた。舞台まで行くことができなかった。
幸いにも、音楽会がすむと、ハスレルのために催される夜曲《セレナード》へ連れてゆくために、祖父が彼を探しに来てくれた。夜になっていた。炬火《たいまつ》がつけられていた。管弦楽団の人々はみなそこに集まっていた。話は先刻聴いた霊妙な作品のことばかりだった。宮邸の前に着くと、人々は楽匠の窓下で静かに準備をした。ハスレルも他の人々も皆、これからやろうとすることをよく承知していたくせに、妙に取り澄ました様子を装っていた。夜の麗わしい沈黙のうちに、ハスレルのある名高い曲が奏し出された。ハスレルは大公爵とともに窓に現われた。人々は彼らの名誉のために歓声を揚げた。彼らは二人とも敬礼を返した。大公爵から遣《つか》わされた一人の従僕がやって来て、楽員たちを宮邸の中へ案内した。彼らはいくつかの広間を通っていった。広間には壁画が描かれていて、兜《かぶと》をかぶった裸体の男が現わしてあった。皆赤い色をして、挑戦的な身振りをしていた。空は海綿に以た大きな雲で覆われていた。また、鉄板の腰衣をまとった男女の大理石像もあった。人々は足音も聞えないほど柔かな絨緞《じゅうたん》の上を歩いていっ
前へ
次へ
全111ページ中80ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング